2026年8月15日
【レポート】理論と実践の狭間で問われる私たちのあり方 ――『新・動物の解放』から考える倫理のジレンマ

株式会社LINOA(本社:東京都新宿区、代表取締役社長CEO:立崎乃衣)は、次世代アントレプレナーコミュニティ「ADvance Campus」を運営しています。今回は、ADvance Campusのメンバー主催による、倫理学に関する勉強会の様子をお届けします。
今回の勉強会は、ピーター・シンガーの著書『新・動物の解放』を題材に、1975年の旧版から約50年を経て変化した動物倫理の現在地を紐解く議論から幕を開けました。「50年前はまだこ んな状況だったのか」「確実に社会の意識は変わってきている」。参加者たちの素直な驚きと実感が、この日の深い探求の起点となりました。
特に参加者の知的好奇心を刺激したのは、「タコの心身問題」をはじめとする生物学的な視点からの議論です。「8本の腕それぞれに脳に近い数のニューロンがあり、自立的に動くタコに意識はあるのか?」「神経があるからといって、即座に痛みを感じるわけではない。熱さに反応する『侵害受容』と『意識経験』は全くの別物である」。専門的な知見を交えた解説によって、私たちが無意識に抱いている「人間と同じような意識」という前提が鮮やかに揺さぶられ、議論は一気に熱を帯びました。
ヴィーガニズムの現実と、倫理のジレンマ
話題が「ヴィーガニズムの実践」へと移ると、対話はより生活に根ざしたものへと変化していきます。「肉や魚を完全に断つことで、体調を崩してしまった経験」「大豆アレルギーの人や、成長期の子供への適用」。全人類が完全なヴィーガンになることのハードルが率直に語り合われました。
その中で模索されたのは、「0か100か」ではない実践のあり方です。シンガーの功利主義的な立場に基づき「代替できるならする、可能な限り減らす」という現実的な着地点が議論される一方で、動物の苦痛を減らす配慮をした農場(アニマルウェルフェア)の是非についても意見が交わされました。苦痛が減れば良いとする立場と、トム・レーガンのように「搾取する構造そのものが問題である」とする立場の違いなど、多様な倫理的アプローチが交錯する奥深い時間となりました。
理論と実践の狭間で問われる、私たちのあり方
セッションの終盤では、シンガーの理論が抱える限界と、興味深いエピソードが共有されました。自身の理論の中では認知症などの意識状態に対してシビアな見方を示していたシンガーが、実際に自らの母親が認知症になった際には献身的に介護をしたという事実です。
この「理論と実践のギャップ」が示唆するのは、倫理とは決して完璧な机上の空論ではなく、現実の葛藤や愛情の中で揺れ動きながら紡がれていくものだということです。高度な学術的・生物学的な知見と、日々の食卓や健康への切実な悩み。その両方を往復しながら、正解のない問いに真摯に向き合い続ける、濃密で知的なセッションとなりました。
【ADvance Campusとは】
ADvance Campusは、中学生から大学生までの好奇心あふれる「個」が集い、分野を越えた自由な探究活動を行う場です。
メンバーは自身の関心に基づき「アゴラ」と呼ばれるチームを組成し、専門性を追求しながら互いに知を磨き合います。
「アゴラ」とは、古代ギリシャの公共広場の名に由来し、議論・交流・創造が生まれる場を意味します。ADvance Campus内の「アゴラ」のひとつであるADvance Labでは、次世代研究者たちがそれぞれの好奇心に基づいた自主的な研究活動を支援してきました。
ADvance Campusでは、こうした「知の結晶化」が日々生まれる、次世代型の知のコミュニティを目指しています。
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